『日本化学連合正会員(13学協会)会長のメッセージ依頼・掲載の趣旨』
日本化学連合会長 岩澤 康裕
(電気通信大学特任教授・東京大学名誉教授)
学術や産業を支え、最新情報と交流の場を提供し、人材育成やリスキリング・リカレント教育、社会啓発など、様々なレベルで多様に貢献する学協会は、専門領域の深化、学際・新興領域の発展、異分野の融合、産業構造の変化、情報収集の行動変化、分散化する活動、会員ニーズの多様化、会員減少など多くの課題に直面しています。持続可能な社会(SDGs)、健康・安心な社会、Society5.0が描く社会(カーボンニュートラル、GXなど)、AIとDXが築くNEWデジタル社会など、我々人類社会を方向付ける科学技術、外部環境、政策・施策も大きく変化しています。このような状況下、学協会間の情報共有や共通課題の解決、連携した人材教育や情報発信、国際対応、政策提言など、共通して取り組むべき課題が山積しています。
我が国の化学系学協会の唯一の連合体である日本化学連合では、化学系学協会の連携強化、共通課題解決、発信力強化、中長期戦略、および政策提言の協働に向けて、学協会の会長間の横糸の場として、正会員13学協会(約7万5千人の個人会員)の各会長から幾つかの事項について会長個人としてのメッセージとご意見を頂き、日本化学連合のHPトップページに公開することにいたしました。各会長には、(1)会長としてのメッセージ、(2)貴学会の使命と将来像、(3)現状の課題、(4)日本化学連合へ期待することに対してのご意見を A4 1頁以内でお願いいたしました。
今後とも日本化学連合の活動へのご支援ご協力をお願い申し上げます。
日本化学連合正会員(13学協会)会長メッセージ
メッセージの内容
- 学会長としてのメッセージ
- 学会の使命と将来像
- 現状の課題
- 日本化学連合へ期待すること
化学工学会(SCEJ)
(準備中)
クロマトグラフィー科学会(SCS)
会長 齊戸 美弘
(豊橋技術科学大学大学院工学研究科 教授)
クロマトグラフィー科学会は、分離分析化学の分野で最も広く使われているクロマトグラフィーならびにその関連技術に特化した学会で、会員数は400名余りと、学会としては小規模ですが、クロマトグラフィーが医学、薬学、理学、工学等をはじめ、その関連応用分野において広く使用されている基幹技術であることから、これらの専門分野のみならず会員の所属も大学、公的研究機関から企業まで極めて広範に及んでいます。本学会は、学術集会の主催、学術刊行物の発行、各賞の授与等を通して、分離科学関連研究の一層の発展を目指して運営されています。
本学会はその小規模ゆえの機動性を活かして、学会の事務全般、学術刊行物である英文論文機関誌CHROMATOGRAPHYの編集に係る事務作業を役員が分担して担当しており、専任の事務局職員等は配置していません。このような運営体制には、即時性が要求される昨今の情勢において、迅速な判断と行動が可能であるという利点があります。また、会費を同種の学会に比べて大幅に安く設定(個人会員3,000円/年、学生会員1,500円/年)することができるのも、このような運営体制の利点だと思います。現在の運営体制に移行したのは、かつて事務を委託していた学会事務センターの破綻処理後ですが、それは我々のような小規模学会の継続と維持をどのようにすべきかについて議論し、最終的に到達した結論でした。今後も、一層の会員サービスを拡充させる一方で、会費あるいは学術集会の参加登録料等の値上げは、極力避けたいと考えています。
会員全員に、年3冊の機関誌CHROMATOGRAPHYを送付していますが、この機関誌の改革も進めて参りました。著者自らが最終掲載形態の原稿を準備できる論文テンプレートを学会HPにおいて公開し、迅速な審査と編集作業が可能となっていることから、投稿から掲載までの期間が大幅に短縮されています。また、掲載決定後は、J-STAGEでのオープンアクセス誌として速やかにオンライン公開しています。2023年からは、インパクトファクターの付与も予定されており、一層時代の要求に適合した論文誌へと進化することが期待されますが、一方で、投稿数が急増する可能性もあり、編集体制の強化を図らねばなりません。
クロマトグラフィー科学会は、化学連合の中でも最も小規模な学会ですが、化学連合の構成学会の皆様には、化学連合という、より大きな規模の研究者集団の利点を活かして、化学研究の成果やその重要性のみならず、日本の化学関連研究者を取り巻く状況を正確に政府へ伝達していただくほか、次世代を担う若手研究者あるいは学生が、明るい将来像を描けるような環境づくりに、一層ご尽力いただきたくお願い申し上げます。
高分子学会(SPSJ)
会長 伊藤 耕三
(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)
高分子学会は、世界で最も大きな高分子科学の学会として、先人のたゆまぬ努力により、学術・技術・社会の発展に大きく貢献してまいりました。ポリマーが金属、セラミックと並び3大材料と呼ばれる中で、高分子科学が、今後も時代を革新する重要な科学技術であることは間違いありません。学問(両輪としての基礎と応用)の継承と深化、持続的で豊かな未来社会創造に貢献するために、世界を牽引する魅力ある学会であり続けるように努力してまいります。
高分子材料の多くは石油を原料としていますが、近年、地球環境保全の見地から、CO₂排出量の削減や資源循環型社会構築などに対する配慮が材料開発の段階から求められるようになってきました。一方で、マイクロプラスチックによる海洋汚染が世界的注目を集めるようになり、地球レベルでの環境保全への取り組みが一層高いレベルで求められています。このような状況の中で、サプライチェーン全体として産業競争力の向上や環境負荷を最小化する資源循環システムの構築を目指した技術開発が喫緊の課題となっています。昨年創立 70 周年という節目を迎えた高分子学会は、学術の深化と新分野への展開を強力に推進するとともに、資源循環など喫緊の社会課題に対して産学官が一致団結して果敢に挑戦し、SDGsの実現に貢献していく必要があると考えています。
高分子学会では、創立60周年の際に「持続成⻑可能な社会実現に向け貢献する高分子学会」という学会ビジョンを掲げ、さらにSDGsに向けて、3つの融合(知力 の融合、マテリアルの融合、人材の融合)が重要であり、それらを具現化する20項目のアクションプラン「未来宣言 2017」を提言致しました。昨今の大きく変動しようとしている社会において、学会として何をなすべきか、何ができるのかを考え、超スマート社会における新たなプラットフォーム(①発見と独創性を育くむ交流プラットフォーム、②戦略的連携推進、世界情報発信プラットフォーム、③次世代&グローバル人材育成プラットフォーム)を築いていきます。
化学界、産業界は、益々細分化、多様化していますが、将来の日本の技術、産業のさらなる発展を担うような研究のブレイクスルーを産み出すためには、俯瞰的で分野横断的な自由な発想を有した活力ある人材の育成が不可欠です。これらを実現し得る新たなプラットフォームの構築に向けて、化学系学協会の発信力や相互交流の強化と政策提言の協働を達成し得る日本化学連合は、重要な役割を担っていると考えており、ますますの発展を期待しています。
触媒学会(CATSJ)
会長 山中 一郎
(東京工業大学物質理工学院 教授)
(1)会長としてのメッセージ
地球環境の劇的な変化の中,カーボンニュートラル(CN)の実現に向けた取り組みは待ったなしの状況です.CNを実現するためには,エネルギー,プロセス,経済,社会など各分野がすべて連携する必要がありますが,触媒化学技術が心臓部であることは言うまでもありません.我々は極めて重大な課題に直面しており,やりがいと共に責任を背負うことになります.これに答えるためには20年先,30年先を見据えた触媒化学技術の革命的進化を成し遂げなければなりません.革命的進化のためには永続的な研究開発が不可欠であり,これを担う若手研究者の育成が重要です.現学生を含め産官学の若手研究者の研究活動の持続性と活性化が重要です.
(2)貴学会の使命と将来像
革新的触媒開発による化学反応の効率化とその触媒化学の解明は,CNとは関係なく科学の命題の一つであり,少しでも進化を続けなければなりません.産官学の連携による前を見据えた革新的研究を推進すると共に,自己満足の研究のための研究ではなく本質的な触媒作用機構の解明,触媒作用制御の理論の構築が使命と考えています.如何にエネルギーを消費せずに,廃棄物を排出せずに目的の物質を高選択・高収率・高速で合成することが肝要です.また逆の流れで,高エネルギー物質から如何に効率的にエネルギーを取り出せる触媒を開発し,その触媒化学を解明することが使命です.これを追求し,実装化することで社会の発展に貢献できます.
(3)現状の課題
上記しましたが20年先,30年先に活躍できる触媒化学者の養成が重要です.技術の革新は研究開発の持続性が不可欠であり,これを担う若手研究者の育成が重要課題です.現状は,触媒化学を専門とする大学研究室数が減少しており,学生を含め若手研究者の絶対数に不安があります.見た目の華やかさでなく,本質的な課題に取り組む研究者を確実に育てることが課題です.
(4)化学連合へ期待すること
決して華やかでなくとも本質的に重要な化学技術を持続的に研究開発する風土の醸成を期待しています.この意味合いにおいて,若手研究者への持続的研究資金の投入などを政府に働きかけていただきたいと考えています.
石油学会(JPI)
会長 村松 淳司
(東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター センター長・教授)
石油学会の会長を拝命いたしております東北大学の村松でございます。日本化学連合会員の皆様にご挨拶申し上げます。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが収拾される見込みもないなかで,ロシアのウクライナ侵攻から始まった歴史的な転換期に今まさに直面しています。この激動の時代の中で,石油が人々の普段の生活に果たす役割は依然として重要で,大きな影響力を有しています。
エネルギーミックスの中で石油の用途については,発電用や家庭用などに比べると,化学用原料,自動車における絶対消費量は,この20年は多少減少したものの,大きな変化はなく,天然ガス,石炭を含めた化石エネルギーが,一次エネルギー供給量のほとんどを占めている状況に変わりはありません。一方,昨年10月22日には「第6次エネルギー基本計画」が発表され,2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みを入れながら,脱化石資源を見据え,水素やアンモニアの利用など,新しい技術を積極的に採り入れた構成になっています。電源構成だけとって言えば,石油類への依存は2 %程度に抑えることとなっていて,もちろん,石油火力発電からの全転換を見据えています。
カーボンニュートラル,そしてカーボンゼロを目指すとき,家庭用や化学原料用も含めて,石油消費プロセスの中でのさらなる省エネルギー化の推進,CO₂転化技術を含めた有効利用手法の開発など,ますます石油に深く関わる新技術の創成,研究開発が最重要課題であることが明確になってきています。
石油学会は,石油や石油化学に関わる技術者,研究者が集まり,情報交換し,そして共同研究や産・官・学連携などを推進する,アカデミアと企業人が交わる重要な場として,その意義が変わることはありません。また,石油・天然ガス資源調達先の国々との多面的な関係構築の形成を進め,石油・天然ガスを取り巻く情勢の理解を積極的に深め,産・官・学が連携して国際的な協力をますます進展させる必要があります。石油学会の主要な役割として,それらの国々との人材交流や研究情報共有,ならびに相互理解につながる技術情報交換のための交流の舞台提供があり,これらを将来的に継続していく必要があります。
さらに,今後はカーボンニュートラルを目標とするわが国の中で,石油を知り尽くす専門家集団として,特に学会外へ石油に関わる情報発信や資料提供などを,積極的に推進していく必要があります。すなわち,石油に関わる技術・研究・教育の重要な役割を担っていくことになるものと思います。今まで以上に日本化学連合会員の皆様と、共通の課題への取り組み、情報発信、教育など分野で交流・連携し、次世代へ繋がる活動が進むことを期待しております。
繊維学会(SFSTJ)
会長 大田 康雄
(東洋紡株式会社 監査役)
1.会長としてのメッセージ
一般社団法人繊維学会は、1943年に設立され、一貫して繊維に関連ある学理とその応用の進歩普及をはかり、学術、文化及び産業の発展に寄与することを目的として運営されております。「繊維」という共通ワードの下に、分子スケールの設計から、その高次構造が制御された集合体としての一本の糸、さらにそれらを織り成す技術、衣食住含めての生活、環境、最終目的にかかる広範な学際領域にわたる研究者・技術者が集まったソサイアティであります。
2.本学会の使命と将来像
人類の生存に不可欠な衣食住、地球環境を支える繊維及び関連した学問領域の研究者・技術者には、時代や環境の変化に対応していくために新たな価値、イノベーションを持続的に創出していく責務があると考えられます。繊維学会には、そのような繊維関係者の叡智を結集し、さらなる学理の探求と繊維を軸とした学術・文化・産業のイノベーション促進により未来社会を見据えた価値創造を強力に推進していくという使命があります。その実現のためには、我が国の繊維及び関連する業界を学理の面からリードし、国際的にも高いポジションを占める学術団体を構築し、世界に向けた価値提案、社会的問題解決、及び他分野と連携した新学術分野の創成に向けて会員が国際的に活動する場として機能しつつ、次の時代を担う人材を持続的に育成していくという将来像を描いております。
3.現状の課題
学会正会員の減少と高齢化が大きな問題であり、学会誌等の編集作業、イベントの企画などに対してのマンパワーの不足も深刻であり、解決していかないといけない問題であります。また、学界、産業界の連携が不十分であり、かつ分野を跨いで繊維系の研究者・技術者が一枚岩になっている状況とは言えず、なんらかの大きなリストラクチャーが必要と考えております。
4.日本化学連合へ期待すること
本学会は、繊維の科学と技術の川上から川下までも網羅している学会です。化学は材料科学の基礎となる学問領域であり、他学会との積極的な連携を通じて、新しい学問領域を確立していくことは、本学会のメリットとなるばかりではなく、日本の学界と産業界が両輪としてともに発展していくために不可欠と考えます。日本化学連合には化学の学界を総括する立場で、政府の政策決定に積極的にコミットしていく仕組み作りを期待しております。
日本エネルギー学会(JIE)
会長 齋藤 公児
(日鉄総研株式会社 シニアフェロ- 日本学術会議連携会員)
1.会長としてのメッセージ
(一社)日本エネルギー学会は 1922 年に設立され、エネルギーの供給、輸送、利用など幅広い側面からエネルギーに関わる諸課題を解決していく事により、我が国ひいては世界に貢献していく事を目的とした学会で、今年100周年を迎えた。1992 年に現在の名称である日本エネルギー学会と改称するまでは、燃料協会という名称であった。元々は、石炭、天然ガスなどの化石燃料利用に関わる研究課題が主体であったが、近年は、バイオマスや太陽光などの再生可能エネルギーなどや水素が注目されるに応じ関連研究者の参加が増加していると共に、エネルギーの効率的利用など消費者に直結する課題なども多くなって来ている。本学会はいくつかの専門部会を持っており、エネルギーに関する研究成果の発表と最新情報の発信を行っている。本学会では論文の電子化、財政体質の見直しタスクフォース活動などに取り組み、新エネルギー・水素部会、省エネルギー・消費者部会、エネルギー学部会を立ち上げ、アジアバイオマス会議の開催など非常に裾野の広い学会活動を進めてきた。多くの100周年記念事業を遂行し、次の100年に向けての新たな一歩を伝統ある本学会の発展に向けて精一杯努力したい。
2.本学会の使命と将来像
本学会は化学から見て横串的な学会であるだけに、次の100年を目指して、次世代のエネルギー関連の研究者・技術者の育成が果たすべき重要な使命の一つである。時代の変化に即応した課題の抽出・設定ができる人材がさらに強く求められているので、長期的な視点に立ち、かつ、学生から企業の若手・中堅に至るまで連続した人材育成施策は、その重要性を益々増している。求められる人材育成に貢献できるように、エネルギー関連業界を取り巻く環境変化や社会からのニーズを敏感にキャッチし、より課題を明確にし、解決に向けて活躍できるような力を身に着けられるよう講演会やシンポジウムや講習会等の充実を図っていく。昨年の10月に第6次エネルギー基本計画が発表された。2050年カーボンニュートラル(2030年度の46%削減、更に50%の高み)を目指して挑戦を続ける新たな削減目標の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すことが重要で、世界的な脱炭素に向けた動きの中で、国際的なルール形成を主導することや、これまで培ってきた脱炭素技術、新たな脱炭素に資するイノベーションにより国際的な競争力を高めることとしており、今後カーボンニュートラル実現のため、本学会が省エネルギー、再生可能エネルギー、さらにCCU、原子力、アンモニア燃焼などのさまざまな技術開発課題に取り組むため産業間連携の橋渡しを果たしていくことが使命だと感じる。特にCCUは今後取り上げるべき重要な領域と考えており、本学会の特徴の産官学連携を更に強力に推進しながら、積極的に取り組んで参りたい。
3.現状の課題
11年を経過する東日本大震災以降、エネルギーに関して多くの議論がなされるようになっている。また人口減少を受けての学会員数等の低下の中で、昨今の世界的なコロナ禍の影響を受けつつも、真に持続可能な社会構築に向けて、地球温暖化防止等の環境保全、エネルギー資源の多様化、エネルギー自給率とコスト、安全性などの観点から、より一層の省エネルギーや資源循環を進めながら、化石エネルギー、再生可能エネルギー、原子力などのエネルギーミックスや対応技術を最適化と学会活動の活性化は、本学会に課せられた大きな課題である。
4.日本化学連合へ期待すること
当学会は日本化学連合に所属する学会の中では、化学を用いた横串の学会である。そのような観点から、日本化学連合などを通しての他学会との連携が極めて重要であると思われ、2050年のカーボンユートラルに向けて、お互いのシナジー効果を得るべく情報交流の推進や新たな企画立案、積極的な共同開催等を期待している。
日本化学会(CSJ)
会長 菅 裕明
(東京大学理学系研究科化学専攻 教授)
産官学の化学に関わる会員により構成されている日本化学会は、世界を先導する研究および技術開発による基礎科学の発展ならびに社会実装を通して、持続可能な社会の構築に貢献することをミッションとしています。今や、「カーボンニュートラルな社会の構築」「炭素循環型社会の構築」は、地球上に住む人類にとって最大かつ長期にわたる挑戦「グランドチャレンジ」であり、それはまた人類がもつ全ての知恵、総合知を結集しなければ達成できないミッションでもあります。これまで化学は、化石資源をもとに生産されたエネルギーや化学製品によって人類の生活上の快適さと経済的な豊かさをもたらしてきた技術の源でもありましたが、これからは後者の快適さ豊かさを担保すると同時に、再生可能なエネルギーや化学製品の開発へと注力しなければ、持続可能な社会構築にはつながりません。一方で、現在の技術レベルの通常の進展では、目標としているカーボンニュートラルを2050年までに達成するのは困難との試算も出ており、非連続イノベーションが必要であるとも言われています。今こそ、産業における10年、20年先の技術レベルの壁は何か、それを産学の研究者が英知を結集し明確化することにより、その解決方法を議論し活路を見出し、我が国で非連続イノベーションを起こす一歩を踏み出す時期であり、その絶好のチャンスであると日本化学会では捉えています。化学における非連続イノベーションを基軸に他分野技術を含めた非連続イノベーションへと発展させ、総合知によるグランドチャレンジの解決へと導けることを目指していきたいと考えています。化学連合には、学協会の垣根を越えた産官学のオープンイノベーションに於いて、その中心的役割を果たすことを期待しています。
もう一つの日本化学会のミッションは、将来を担う化学人材の育成であります。現在、日本は博士学位を取得する人材の輩出が、減少傾向にあります。一方で他国(アメリカ、中国、ドイツ、韓国)では、博士人材の輩出が顕著に増加しています。企業のグローバル化が進む中、我が国の企業がより一層グローバル企業として伸びていくためには、この傾向をくい止めることが必要です。そのためには、①小中高生への科学(化学)の重要性を説く教育、②大学における基礎科学の高度な教育とイノベーションマインドの熟成、さらに③新卒一括採用を含む日本独特の社会構造の変革、④スタートアップ企業を含めた産業界研究者のイノベーションへの積極的な挑戦の鼓舞、がシームレスにつながることが必要であります。これにより、研究者の卵である学生たちが、化学への興味を最大化し、博士学位取得を含めた自らのキャリアビジョンを明確にもつことができると考えます。日本化学会は、前者①②については、これまでも学会として最大限の努力をしており、これからも継続していく所存でありますが、後者の③④については、化学連合に集う各学協会と積極的な対話を通じて、協力をしていきたいと思います。
日本ゼオライト学会(JZA)
会長 武脇 隆彦
(三菱ケミカル(株))
(1)会長メッセージ
日本ゼオライト学会は個人会員、学生会員、名誉会員、シニア会員を合わせて約350名、法人会員33団体からなる学会です。ゼオライトを代表とする、規則的ナノ空間をもつ多孔質材料についての研究活動を行い、合成メカニズムの解明、種々の物性発現のしくみ、新規ゼオライトの合成や構造解析などの基礎研究から、ゼオライトを用いた様々な応用、例えば、触媒や吸着材、分離膜などの他、最近では放射能汚染水の処理や、COVID-19のパンデミックにおける呼吸器系治療のための空気中からの酸素濃縮材料等の研究にいたるまで行っております。年に1度のゼオライト研究発表会をはじめとした企画行事を通して、産官学の研究者が集まり、最新の研究成果と活発な情報交換を行う学会となっています。
日本をはじめ、世界の喫緊の課題の一つは、気候温暖化対策です。日本においても2050年カーボンニュートラル宣言が出されました。温暖化対策には、省エネルギー化をより促進するための技術、高効率低コストのCO₂回収技術、回収したCO₂を有効利用する、いわゆるCCU技術、そのためのCO₂フリー水素製造技術、ポリマーのケミカルリサイクル技術など多くのイノベーションを必要とする新しい技術が必要です。ここには、吸着や分離、触媒反応などゼオライトをはじめとする多孔性材料が貢献できる事がたくさんあると思われます。気候変動という地球の危機において、まさしく産官学の連携でゼオライトが地球を救うことができるかもしれないという志をもって研究開発を進められればいいのではないかと僭越ながら思っております。
(2)本学会の使命と将来像
本学会の使命は、ゼオライトをはじめとする規則性多孔体に関連する基礎科学の発展、種々の応用拡大のために、研究レベルの向上を①若手のエンカレッジと育成,②国際的コミュニティーへのコミットメント,③産官学連携を軸に推進していくことです。これを進めていくことによる将来像としては、ゼオライトの基礎から応用までをシームレスにつなげることにより、気候温暖化をはじめとする種々の課題解決に対して貢献でき、産官学のすべてにおいて魅力ある学会となることです。
(3)現状の課題
これまでコロナ禍のため対面の情報交換が制限され、十分な学会活動ができなかったですが、今後はコロナ情勢を勘案しつつ、できるだけ対面での行事も増やし、幅広い意見交換ができるようにしていきたいと考えております。
(4)化学連合へ期待すること
地球温暖化対策等、今後も大型ナショプロ等が行われると思われますが、これらは一つの技術領域のみではできないものが多いと思われます。化学連合が政府動向等を化学系学会に伝え、プロジェクトに適した技術を持つ学会同志を結びつけるパイプ役等となることを期待します。
日本セラミックス協会(CerSJ)
会長 黒田 一幸
(早稲田大学理工学術院 名誉教授)
(1)会長としてのメッセージ
協会活動の更なる活性化を目指し、中期経営計画の進捗を踏まえつつOur Mission(目的)、Our Vision(ありたい姿)、Strategy(戦略)を明確にし、体系的に取り組んでいきたい。当協会が担うセラミックスは 「豊かな未来・夢を実現させる」重要な素材であり、協会からの情報発信を強化し存在感を高めていきたい。2022年は国際ガラス年として、ガラスが基礎科学から芸術に至るあらゆる場面で大きな役割を果たしていることを社会に対して幅広く発信できたと考えている。
(2)学会の使命と将来像
当協会の使命は、セラミックスの科学・技術に関する基礎・応用研究の進歩・向上及びセラミックス産業の発展並びにこれらの基礎となる人材の資質の向上を図るところにある。
近未来を中心にした将来像としては、
を設定し、これらの将来像の具体化にむけて各種施策を展開している。
(3)現状の課題
産業界若手会員を含め会員の減少が懸念され、下記を重要課題と捉え種々の方策を検討・展開中である。
(4)化学連合へ期待すること
各会員(学協会)の活動を尊重しつつも、単独の学協会では難しい課題(例えば、「公益法人認定法の財務基準の見直し」を内閣府に要望するなど)への対応、分野を大きく跨る研究領域の提案と先導等、学協会が相互に利する仕組みの提案なども期待したい。
日本地球化学会(GSJ)
会長 南 雅代
(名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授)
(1)会長としてのメッセージ
日本地球化学会は1953年に約200名で発足した地球化学研究会に端を発しています。1963年に日本地球化学会と名称を改め、2017年11月から一般社団法人 日本地球化学会として再出発しました。本学会は化学と地球惑星科学との間に位置する学際的な研究者の集まりであり、太陽-惑星系、地球の形成と進化、地球内部の構造と進化、さらには大気圏・水圏を含む地球表層の物質循環、生命の誕生と進化、地球環境変遷、環境問題など、地球に関係するあらゆるもの・ことを「化学」を用いて探求しています。
本学会は1966年から欧文誌 Geochemical Journalを、1967年から和文誌 地球化学を発刊しました。Geochemical Journal誌は冊子体の発行を基軸にしてきましたが、2022年1月からJ-STAGEを利用して出版する完全オープンアクセスジャーナルに生まれ変わりました。これにより、世界中のすべての方が出版と同時にGeochemical Journalの論文を閲覧、ダウンロードすることができるようになりました。現在、この新Geochemical Journalを軌道に乗せ、より一層国際発信力・競争力が強化されたジャーナルに発展するよう取り組んでおります。
本学会は、国際的な活動を活発に行っております。地球化学の国際学会であるゴールドシュミット国際会議を2003年にくらしき作陽大学で、また2016年にはパシフィコ横浜で主催し、米国地球化学会)、ヨーロッパ地球化学会とMOUを結んでいます。中国、韓国、台湾の関連学会ともMOUを結び、アジア各国との連携にも力を入れております。
しかし昨今の少子化に伴う会員数の減少、学会誌の維持・活性化、コロナ禍での年会の在り方など、本学会もさまざまな課題を抱えています。会員一人一人の満足度を上げ、何のために学会に入るのか、学会に入るメリットは何かを襟を正して考え直し、会員すべてが参加したい、関わりたいという魅力ある学会、お互いに顔の見える心の拠り所としての学会を目指し、真摯に学会運営に取り組んでいきたいと思います。
(2)学会の使命と将来像
学会活動の要は年会の開催と学術誌の発刊にあると言って過言ではありません。この2つの基盤をしっかり固め、年齢・性別に関わらず、会員全員が誇りと意欲を持って研究・教育活動を活性化できる場、つまり、多様な会員の研究成果発表・情報交換を促進し、研究成果を広く国際的に発信する場を提供することが学会の使命だと思っています。優秀な若者を惹きつけるとともに、学⽣会員を含む若⼿研究者の育成に力を入れ、非会員や一般の方にも地球化学の魅力を伝える場を設け、地球化学の裾野を広げていきたいと思います。
(3)現状の課題
ウィズコロナでの年会開催の在り方、新Geochemical Journalを軌道に乗せること、社会への情報発信・還元、次のゴールドシュミット国際会議の招致、会員数減少を食い止めるための対策、そして、学会運営の効率化などが課題です。
(4)化学連合へ期待すること
本学会員の中には、化学出身の者も多く、化学連合加入学会の化学・薬学系の先生方との研究・教育上の協力関係を築けることを期待しております。また、企業との連携、政府からの情報などをいただけることも期待しております。
日本膜学会(MSJ)
会長 岡村 恵美子
(姫路獨協大学薬学部 教授)
一般社団法人 日本膜学会は1978年に設立され、「膜」をキーワードに、理学、工学、薬学、医学など分野の異なる大学・研究所関係者、膜を扱う産業界関係者が集う異色の学会です。膜に関係した学会は世界で幾つかありますが、欧州膜学会の設立が1982年、北米膜学会の設立はさらに後になりますので、日本膜学会は、世界で初めて設立された膜関連学会ということになります。本会の現在の会員数は300名余でそれほど大きな規模ではありませんが、「生体膜から人工膜に至る幅広い膜を研究対象とし、その融合を図ることで、新たな膜科学の研究領域を開拓する」ことを設立当初から目標に掲げています。毎年春に年会、秋にシンポジウムを定期的に開催し、学術誌「膜」を年6回発行(順次J-Stageで公開)、若手のための「膜学研究奨励賞」の授与、膜誌にアクセプトされた優れた論文に対して「膜誌論文賞」を創設しております。また、本会は産業界からも多大の貢献をいただいており、特別維持会員10社、維持会員21社が精力的に活動しています。
2020年代に入り、急速な高齢化社会の到来といわゆる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、学会の社会貢献・国際貢献がさらに求められています。本学会においても、医療の高度化、カーボンニュートラル、水処理をはじめとして、貢献可能な分野が多いと考えます。例えば、生体膜関係では、膜を介した生命現象に焦点を当てて、そのメカニズム解明から創薬に至る研究が行われておりますが、これらは、癌の新たな診断・治療薬の開発、感染症治療薬の開発、認知症の予防戦略などを考える上で非常に重要な視点になります。
人工膜分野では、2050年カーボンニュートラル実現を目標に、省エネルギーな膜分離に焦点を当て、「二酸化炭素分離膜開発の最新動向と今後の展望」に関する講演会、「ニューメンブレンテクノロジーシンポジウム2022~カーボンニュートラルに貢献する膜技術~」を開催しました。来年も、~2050 年カーボンニュートラルに向けた二酸化炭素分離膜の最新動向~をテーマに講演会を予定しており、CO₂排出削減、濃度低減、カーボンニュートラル実現に向けて膜技術開発がさらに加速することを目標としております。
一方で、本学会においても会員数は徐々に減少しており、世代交代とともに今後の課題となっています。次代を担う人材の育成は重要であり、研究奨励賞に加えて、若手によるシンポジウムの企画、若手セッションなど、活躍の場を進んで提供し、学術誌にも投稿しやすい環境の整備などに力を入れて取り組む所存です。同時に、本会は、膜工学、膜技術分野で世界を先導する役割も担っています。来年は、国際膜学会議ICOM2023 (International Congress on Membranes and Membrane Processes)が27年ぶりに日本で開催されます。日本の膜科学、膜工学を世界にアピールし、ホストとして、日本膜学会の一層の国際貢献が期待されます。
生体反応は化学反応であり、医薬品合成にも化学の知識が必要です。人工膜の合成も然りです。化学がほとんどの基盤となっており、日本化学連合との連携が必要となるケースも多いと存じます。上述のカーボンニュートラル関連では、化学連合からもサポートを頂いております。化学は応用範囲が広く、その意味で、今後さらなる学際化、異分野との融合が必要不可欠です。次代を担う人材育成も急務です。その先導役として、日本化学連合には、化学の重要性を社会に提起するとともに、必要あれば政策への積極的な提言を期待するところです。
日本薬学会(PSJ)
会頭 佐々木 茂貴
(長崎国際大学薬学部 教授)
公益社団法人日本薬学会は、1880年(明治13年)4月に創立された140年以上の歴史を有する学術団体です。初代会頭の長井長義先生がエフェドリンを発見し、その大量合成法を見出したことは有名で、本学会において化学研究が重要な分野として継承される端緒となりました。本学会は時代の変遷に伴って分野を広げ、現在、約15,000名の個人会員が10の部会(化学系薬学、医薬化学、生薬天然物、物理系薬学、構造活性相関、生物系薬学、薬理系薬学、環境・衛生、医療薬科学、レギュラトリーサイエンス)において学術活動を展開しています。
日本化学連合は化学をキーワードとして広範な領域に渡る13の学協会から構成される正会員および賛助会員を束ね、延べ8万人以上の研究者・技術者が所属しています。日本化学連合の構成学会として日本薬学会は生命に密接に関係する化学物質の合成と機能を扱う特別な使命を担っています。今般の新型コロナウイルスパンデミックでは、抗ウイルス剤やmRNAワクチンに関連し、創薬や生体成分の化学構造に大きな注目が集まりました。人類の健康と命を守るために化学の力の重要性を改めて認識することになり、また、社会的には化学物質の負のイメージを正のイメージに変える影響があったのではないかと、考えています。
日本学術会議は30年後の未来社会を見据えた学術振興構想の策定を進めています。30年前にはインターネットやスマートフォン、携帯電話は普及しておらず、デジタル技術に関しましては隔世の感があります。化学は異質のものから全く新規のものを創造する学問であることを考えますと、激動の現在に相応しい革新を化学の世界からもたらす可能性も十分あります。日本化学連合には様々な領域で化学の力を示す学会が参加しています。まったく異質の領域が化学をキーワードに融合し新しい世界観を描くことができるかもしれません。若い世代の学生や子供たちに化学の夢と魅力を見せることによって、化学を担う新しい世代を育成し、化学の持続的な発展が可能になるのではないかと考えています。日本化学連合には産学官を交えてそのような場を作り、未来に向けた魅力ある化学の誕生を促す役割を期待しています。